はじめに

はじめまして。私は株式会社エルハウスの平秀信と申します。家づくりに携わ り約 40 年になります。 家づくりを取り巻く環境は、時代とともにどんどん変化してきました。 20 年以 上前は「高くなければいい家はつくれない、安い家はそれなりの家」と信じられ ていました。しかし、決してそんなことはないのです。

「安くてもいい家」は必ずできるということを、私は自身の会社をもって示してきました。 10 年ほど前にはアメリカのサブプライムローン問題をきっかけに世界的な不況 が始まりました。年金の運用でさえもこの先はどうなるかわからない、各自が自 分の責任で自分の将来に必要なお金の心配をしなければならない。もう今までの ように国に守ってもらえる時代ではなく、自分の身は自分で守っていくしかない。 否が応でも多くの方がこれらのことに気づかされました。

このため、住宅ローン や金融会社、住宅会社とのつき合い方をお伝えし続けてきました。 そんな不況が、東京オリンピックの後、さらにもう数十年は続くであろうと予 測されるなか、非正規雇用の問題や、シングルマザー、マタハラなど……日本の お母さんが今、とても大変な状況にあるのです。一つ一つが大きな問題として扱 われることが少ないため表面化しにくく、潜在的な社会問題として常に水面下に 横たわっているのです。

そんなお母さんたちに、少しでもわかりやすい家づくりを伝えたい。小さな不 安や悩みであっても解消して家づくりを進めていただきたい。そして、今よりいっ そう幸せに暮らしていただきたいと願って、筆を執りました。 私は「家族で幸せになりたいならば、家を建てるべきだ」という確固たる信念 を持っています。この信念に基づいて、これから家を建てようと思っている皆さんには「子どものために家を建てる」ことをお勧めしています。 なぜか。

それは、私の母がシングルマザーだったことに由来します。幼少期の 実体験や母親からの数々の教えがその信念の礎となっています。本当に安全で安 心な家が必要なのはシングルマザーなのです。 「お母さんの負担を軽減する家」 「子どものためと言い訳しない、稼ぎ優先にならない賢い家」 「家族が安心して暮らせる家」 そんな家をご提供することで、少しでもお母さんたちのお役に立ちたいと常に 考え、取り組んできました。

どのようにして、そんな家づくりを実現させるのかに加え、長野県、松本なら ではの地域性を重視した家づくりがどのようなものなのかにも言及し、シングル マザーだけに限らず多くのお母さんのために、できるだけわかりやすくまとめさ せていただきました。 しかし、時代の移り変わりとともにシングルマザーに対する理解も考え方も変容しています。

世の中にどんどん進出し、仕事を持ち、毎日明るく元気なお母さ んもたくさんいらっしゃいます。 それでもすべてのお母さんがそうではないのも事実です。 母子家庭は慎ましく生活しないといけない――。 私が子どもの頃にはそんな風潮がありました。 そんなお母さんたちに対する偏見、あるいはそのようなご自身の思い込みは完 全に間違いです。本書を通じて、私がその概念を覆してみせます。 準備はよろしいですか? ではさっそく始めていきましょう。

第1章 日本のお母さんが大変だ!

さまざまなことがお母さんを苦しめている

お母さんの7割は働いている

私は長野県茅野市に本社を構える工務店、株式会社エルハウス(以下エルハウス)をはじめ7社の社長を務めています。本社は茅野市にありますが、本書のタイトルにも入っている松本市には支店があり、松本・諏訪地区を中心に、800 棟以上(2016 年11月時点)の家を建ててきました。いつもお客様のために一生懸命働き、私を支えてくれる社員たちの中には、子育てをしながら働いている女性社員がいます。男性社員も同じですが、特に小さな子どもを抱える社員がもっと働きやすくなるためには、どんな環境がいいのかと常々考えます。

また、家づくりを通してたくさんの子育て世帯の方々にお会いしてきました。特にエルハウスでは、収入面などさまざまな理由で家を持ちにくいシングルマザーの家づくりをサポートしてきた経緯があるため、シングルマザーの施主様ともおつき合いがあります。どうしたらマイホームを持ちたいという夢を叶えてあげられるか。また、マイホームを建てた後も、不安や後悔なく暮らしていくことができるのか。そんなことをずっと考えてきました。

私なりに考えた「答え」は後でお話ししますが、職場環境だけでなく、工務店の社長として、どんな家だったら家事の負担が軽減されるのかなどうすればもっと安定した生活を送れ、住宅ローンの返済が楽になるのかなといったことを考える習慣がついたのは、シングルマザーとして私を育ててくれた母の姿をずっと見てきたことが影響していると思います。

私が小学4年生のときに父が蒸発し、母は女手一つで、兄と私を育ててくれました。もちろん私はマイホームを持ちたいと願うお父さんの味方でもあります。念のためにお伝えしておきますが、エルハウスはシングルマザーの家だけを建てているわけではありませんよ。定年を迎えて、残りの人生をゆっくり過ごしたいというご夫婦。

二世帯住宅を希望されるご家族。結婚したばかりでお子さんはこれからというご夫婦。お客様はじつにさまざまです。これから一組でも多くのお客様の願いを、家を建てるという形でサポートしていきたいと本気で思っていますし、精力的に取り組んでいます。しかし、生い立ちのせいで私は日本中のお母さんと呼ばれる人に相談されると、絶対にお役に立ちたいと、いつも以上に気合が入ります。

社員からは、特にシングルマザーのためにそこまでするのかと呆れられることもしばしばです。私自身は離婚を経験しています。今は再婚して幸せに暮らしていますが、日本では結婚したカップルの3組に1組は離婚しているといわれる時代ですから、離婚している人が周囲にいても、あまり気にならなくなりました。

厚生労働省が発表した、「平成27年国民生活基礎調査の概要」にある「末子の年齢階級別にみた母の仕事の状況」(図1)を見ると、児童のいる世帯における母の仕事の有無、つまり働くお母さんは全体の68・1%で約7割います。10年前の平成17年版を見ると、59・8%。約6割だった10年前から1割程度増えています。

働くお母さんが増えている理由については、離婚してシングルマザーになったお母さんが増えたこともあるだろうし、日本経済の影響で家計の収入が低下していること、それから女性の社会進出が進んでいることなどが挙げられるでしょう。結婚生活が続いているかどうかは別として、働くお母さんが増えていることには変わりありません。

専業主婦になれないお母さん

「末子の年齢階級別にみた母の仕事の状況」をさらに詳しく見ると、子どもが0歳というお母さんの4割近くが働きに出ていることがわかります。

私は自分の会社の女性社員が働く意欲を持っていたら、可能な限り応援したいと思っていますが、本心を言えば子どもがある程度大きくなるまでは、お母さんには専業主婦として子どものそばにいてあげてほしいと願っています。そう願うのは、必死になって働く忙しい母に、素直に甘えることができなかった私が、仕方ないとわかっていながらも寂しいと感じていたからかもしれません。

0歳で4割だった働くお母さんは、子どもが1歳になると5割程度とさらに増えます。2歳くらいになると言葉も覚えるし、イヤイヤ期に突入する子どももでてきたりして、なかなか手がかかりますが、1歳くらいまでって本当にかわいい時期ですよね。よちよちと自分で歩こうとしたり、いろいろなものに興味を持ったりして、かわいい盛りです。できることなら、子どもの成長をずっとそばで見ていたい、とても貴重な時期です。保育所やおじいちゃん、おばあちゃんに子どもを預けて働いているけれど、本当は働きたくない。

もしも働く理由がなければ、こんなに早く子どもを預けて働きたくないと思っているお母さんだって少なくないと思います。今、日本は長く続く不況に陥っています。国債や借入金、政府短期証券をあわせた国の借金の残高は2018 3月時点で1087 兆円になりました。日本の総人口12653 万人(総務省 2018 41日時点概算)で割ると、国民1人当たり約859 万円の借金を抱えている計算です。老後の年金もあてになりません。日本の年金は、〝おみこしを担ぐ方式〟で、若い人が高齢者を支えるという仕組みをとっています。これは賦課(ふか)方式と呼ばれ、20歳~ 64 歳までの現役世代が納めた年金保険料で、65歳以上の年金給付金を賄う方式です。少子高齢化に伴い、おみこしを担ぐ人の割合が減り、担ぎ手の負担がどんどん大きくなっています。

こうした状況は、私がここで長々と説明しなくても、みなさんよくご存知ですよね。子どもの学費だって稼がなくちゃいけないし、老後にも不安がある。だから、どんなに子どものそばにいたくても、少しでも働いて稼がなくちゃと思うのは当然のことです。よほどお父さんの稼ぎがよくなければ、専業主婦になりたくてもなれないという現実があります。

若い人は「何それ?」と知らないかもしれませんが、「鍵っ子」という言葉が流行した時代がありました。高度経済成長と核家族化が進んだ昭和40年代、両親ともに働きに出ていて家に誰もいないため、学校から帰ってくると自分で玄関の鍵をあけなければならなかった子どものことです。今は「鍵っ子」という言葉は差別的だと捉えられているようですね。私が子どものころは専業主婦のお母さんがほとんどで家にいるのは当たり前でしたし、三世帯同居も多く家に帰れば誰かがいましたから、自宅の鍵を持つ必要もありませんでした。

度重なるマタハラ、職場から理解されないお母さん

長野県では縁遠い話かもしれませんが、東京都などの都市部では待機児童問題を抱える自治体が多いのです。核家族、共働き世帯の増加などで、保育所の数が圧倒的に足りないのです。出産後も働き続けなければならないお母さんは保育所の受け入れ年齢に達する前から必死で預けられるところを探し、入れるとなったらすぐに子どもを預けて働かなければいけないのです。

日本労働組合総連合会が2013 年の6月に発表した「子ども・子育てに関する調査」では、「自身の職場が子育てをしながら働ける環境にあるか」という質問に対し、「そう思わない」と感じている人は28%でした。現在、仕事と子育てを両立している人の4分の1以上が、十分に働けるような職場環境にいないと思っている計算です。職場が子育てをしながら働ける環境にないと答えた人に、その理由を聞いたところ(図2)、もっとも多かったのが「子育てが理由でも休暇・休業が取りづらい」67・1%、次に「子育てに関する勤務時間制度が整っていない」54・0%、「子育てに関する休暇・休業制が整っていない」「子育てが理由で遅刻や早退がしづらい」がいずれも52・0%、「他の社員・職員に迷惑がかかるから」が45・6%と続きます。

職場の制度が整っていないことだけではなく、周囲の社員・職員から子育てへの理解が得られていないと感じているお母さんは多いようです。必死になって預けられる保育所を探して子どもを預け、やっと働き始めたのにこの現実は残酷だと思いませんか?また、妊娠・出産を理由に職場で不当な扱いを受けるマタニティーハラスメント(以下、マタハラ)について、2015 年に厚生労働省が女性を対象におこなった調査では、妊娠・出産した派遣社員の48%が、「マタハラを経験したことがある」と答えました。

正社員では21%でした。特に雇用が不安定で立場の弱い派遣社員が被害に遭っているようですが、マタハラを経験したと答えた人のうち、派遣社員の27%が「妊娠を理由とした契約打ち切りや労働者の交代」を経験していました。マタハラを受けた人に複数回答でその内容を尋ねると、上司などから「迷惑だ」「辞めたら」といった嫌がらせの発言を受けたケースが一番多く、47%が経験済み。解雇のほかに、15%が「退職強要や非正規への転換強要をされた」と答えました。

中には、復帰しようとした時に、「もう来なくていいよ」と言われてしまったお母さんまで……。私も社長という立場である以上、どうしても数字が気になります。収益を上げなければ会社は維持できないので、労働条件だけを見て会社に対する貢献度が高い人を雇いたいという会社側の気持ちも、わからなくない訳ではありません。しかし、自分たちの身を守ることばかり考えていたら、長い目で見たときに、商売はうまくいかなくなると思っています。

もしも子育て中のお母さんをサポートすることができたら、そのことに感謝してくれたお母さんは、会社のために長く働いてくれるようになるでしょう。子育て期間のたった数年という話ではなく、何十年と会社に貢献してくれる人材になる可能性を秘めている。この辺りのことがわからない会社が多いことに、私は不安を感じているのです。

お母さんの働き方にも課題山積

お母さんの就労環境の問題を突き詰めて考えていくと、お母さんの雇用形態という課題にぶつかるとも考えています。先に紹介した「末子の年齢階級別にみた母の仕事の状況」(図1)を見ると、子どもの年齢が上がるとともに、お母さんの有職率も上がっていることがわかります。一番小さな子どもが高校生の場合、8割近いお母さんが働いている。

この数字を見る限りでは、子どもが成長して手がかからなくなれば正社員としてフルタイムで働けるから数字が増えたと想像されるかもしれません。しかし、残念ならが子どもの年齢と正社員率には関連性が見られません。子どもが大きくなっても、お母さんの正社員率は2割前後しかありません。パートなどの給与年収が103 万円以内であれば、その人は所得税を払う必要がありません。そのため、お母さんたちは正社員にはならず、パートやアルバイトという雇用形態で働いてきました。もちろん、子どもの入学式とか卒業式といった学校の行事になるべく参加したいとか、働く時間を短くしたいとか、雇用形態にこだわるよりも、家の近所で働きたいとか、個々に理由はあると思いますが、お母さんの正社員率はずっと低いままです。

さらに私は母子家庭、シングルマザーが増えていることにずっと注目してきました。2015 年に厚生労働省が発表した「ひとり親家庭の現状について」という調査資料を見ると、この25年間で母子家庭が1・5倍に増えていることがわかります。母子家庭のお母さんは8割が働いており、そのうち非正社員が57%。平均年間収入は181 万円。子どもを養うには、正直に言って少なすぎる額です!

変わったのは表面だけ? 男尊女卑の日本

私の前妻はケアマネージャーとして働いていましたし、母も私たちを育てながら一生懸命働いてくれました。イクメンという言葉にあるように、今は子育てに積極的なお父さんも増えているようですが、お父さんが主夫になってお母さんと立場が逆にでもならない限り、家事や育児に関してはお母さんの負担が圧倒的に多いのは間違いありません。

第2章でも触れますが、私は最初の結婚の時期に起業しました。今も反省していることですが、特に起業時は家庭のことは全部妻に任せっきりで、家族サービスなんてほとんどしませんでした。仕事以外のことは何もしなかったから、人並みの成功を手にすることができただけであって、家事や育児までやっていたらここまで事業を拡大することはできなかったと断言できます。家事もやって育児もして、旦那さんの面倒も見ながら仕事もする。そこに両親の介護なども加わるかもしれない。一人何役もこなすお母さんの大変さは、男である私には耐えられません。

日本を支えているのは、昔も今もお母さんだと私は思います。ここで少しだけ難しいけれど、大事な話をしておきます。日本で本格的に男女平等が言われるようになったのは、第二次世界大戦後の1947年。男女平等を保障した日本国憲法が施行されてからです。その後、徐々に女性の社会進出が進み、最近では2005 年12月に、第二次男女共同参画基本計画が策定され、2020 年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上にする推進運動が進められています。しかし、そうした推進運動を進めるだけで現状は変わるのでしょうか。私から見れば、日本にはまだまだ伝統的な男尊女卑の考えがあり、これが世の中のお母さんたちを苦しめている一番の原因です。

国際比較調査グループISSPが2012 年に実施した調査、「家庭と男女の役割」の結果によると、1週間に20時間以上家事をしている日本人は、男性で4%なのに対し、女性は65%という結果が出ています。家事をする男女の差は60ポイント以上ですが、この調査対象となった31カ国中で、日本は2番目に差が大きいことがわかりました。洗濯や食事の支度など具体的な家事についても、日本の女性は各国と比べて、主な担い手となっている割合が高いのです。

「いつも私ばかり家のことをしている。休日でも旦那は寝てばかり」と思っているお母さん、たくさんいますよね? 日本の多くのお母さんたちが、不公平だと感じているはずです。進んでいるのかどうかは別として、一応社会では男女平等を進めようとしているのに、家庭では相変わらず伝統的な考えで男女不平等のまま。これではお母さんが思うように働けません。

それって子どもの責任? いったい誰が悪いのか

仕事と家族とどっちが大事?

先ほど、「鍵っ子」という言葉が昭和40年前後に生まれたという話をしましたが、専業主婦世帯よりも共働き世帯が多いというのは言わずもがな、女性の社会進出が進むなか、長時間働くお母さん、ベビーシッターを雇って夜中まで働いているお母さんが増えました。お母さんを取りまく働く環境は悪いのに、仕事を失うわけにはいかないと必死になって働く。

自分の時間、家族との時間なんてなくても、とにかく働かないといけないんだと言い聞かせて働く。こうなってくると、家族を養うために働いているのか、仕事のために働いているのか、なんだかよくわかりません。「なんのために働くのですか?」と聞いたら多くの人は、家族を養うために働いていると答えるでしょう。しかし、その働き方は養うためという理由の範囲を超え、家族を犠牲にして働いていると言えないでしょうか。

働きすぎで休む暇もなく、休日はとにかく寝ていたいくらい疲れている。それなのに子どもが家の中でバタバタと暴れたり、「遊びに行こうよ」とせがんでくる。そう言われる だけで、私はこんなに疲れているのにとイライラして、つい大きな声で叱ってしまう。で も冷静になると、なんで子どもを叱ってしまったのかと自己嫌悪。そんな状態で幸せと言 えるのでしょうか。

「私は子どものために頑張っている」と言いたい気持ちもよくわかりますが、そもそも 死ぬほど働けと子どもたちがお願いしたわけではありません。すべては自分が選択したこ となのです。親が働いている間に、たまたま事件に巻き込まれて子どもが殺されてしまう といった事件はゼロになりません。また、親の目の行き届かない時間が増え、昔でいえば 不良ですが、今は不良という言葉も死語だと思うので、なんという言葉が適切なのかわか りませんが、要は非行に走る子どもになってしまっても、やっぱり仕事が大事といえるで しょうか。

先ほども書きましたが、私は工務店を経営し、たくさん家を建てることで人並みの生活 ができるようになりました。その一方で、家族よりも仕事を取ってしまった人間です。過 労で倒れて救急車で運ばれたこともあります。命すら落としかねないくらい働くなんて、 今思えば当時の私は狂気の沙汰だったのだと思います。そんな働き方は、社員であろうと 誰であろうと、絶対におすすめできません。 仕事は確かに楽しいです。達成感を感じることができます。お客様に感謝されたり、社 員からも頼りにされ、自分なりにやりがいもあります。

でもがむしゃらに働いていたときに本当に死んでしまっていたら、この世に私はいませ ん。再婚して、長野の田舎で野菜を育てながら幸せに暮らすような今の生活は得られませ んでした。だから手遅れになる前に、働き詰めのお父さん、お母さんに聞きたいのです。 「仕事と家族のどちらが大事ですか?」 これは私自身の後悔なのです。

私は仕事人間だったせいで、2人の娘が小さかったころ の思い出がほぼありません。確かに人並みの収入を得て、娘たちを海外に留学させました。 2人とも英語が話せるようになり、就職や生活には困っていません。これはお父さんとし て唯一役に立てたことだと思っています。しかし、同年代の人の子どもとの思い出話を聞くと、寂しい気持ちになります。

なぜなら、私には語れるほどの子どもとの思い出がないからです。子どもは本当にかわいいです。そして本当に手がかかります。だから腹が立つことも多く、子育てが負担だと感じた私は、仕事に逃げていたのかもしれません。

いつの時代も子どもに罪はない

専業主婦を希望していても、子ども預けて働かなければならない事情があるのも確かです。お金がなければ生活していけないのは事実ですが、「仕事と家族のどちらが大事ですか?」という問いと重ねて、もう一つ伺いたいのです。「みなさんは、お金についてどう思っていますか?」私は若いころに貧しかったということもあり、お金こそ人生でもっとも大切なものだと思っていました。

ずっとずっとそう思って生きてきたし、57歳になった現在、自分の人生を振り返りながらお金について考えてみると、やっぱりその通りだと思います。お金がもっとも大切なものです。そして、お金は働いて入ってくるものです。お金持ちでも貧乏人でも、強い者でも弱い者でも遊んで暮らしている人は、どうやって生活しているのか。

働いてもいないのにお金に困らないなんておかしいですよね。よほどの資産家でもない限り、お金とは稼ぐものです。悪い人にお金を貸すと、お金を失っただけでは終わりません。被害者である貸した側が悪者になる場合もあります。お金は時に自分を犯罪者にします。身の丈に合わない額を持つと不幸になることだって十分にあります。

それでも人よりはお金のほうが、はるかに信用できるし、頼りになります。裏切ったり、そのときの気分でコロコロと変わる人の心のほうが何倍も信用できません。それが誰かを欺して手に入れたお金だったとしても、お金の価値は変わりません。誰の手にあろうと、1000 円札は1000 円の価値を維持したままです。世界にはいつでも貧しい人がいます。これは逆に、いつでも富を集めている人がいるからです。富は権力の象徴でもあるので、富を得ることで自分の好きなように世界を動かそうとしています。

みなさんは、「うちは貧乏だ」「お金がまったく足りない」と思っているかもしれません が、私たちはこれから一生食べていけるだけのお金をすでに手にしているはずです。ただ し、これは「これから先、何も買わなければ」の話です。 ちょっと騙されたような気分になったでしょうか。 しかし、欲しいと思うものは一切買わずに必要なものだけを買えば、お金はあまり減らないのです。

そしてお母さんだけでなく、下手をすればリストラでお父さんが会社をクビ になりかねないご時世にあっても、自分を見失わず、ほんのわずかな富で生きていける人 は、必ずいます。 お金とは手放すとき以外役に立たないものです。それよりも、自然や木や花など、多く のつつましい富が私たちのこの世を豊かにしてくれます。

私が本書で、松本市、ひいては 長野県で家を建てようとおすすめしているのは、このつつましい富が豊富だと感じている からです。そこに気づいた人は、わずかなお金でも幸せに暮らしています。確かに東京や 大阪といった大都市にあるような大型の商業施設やアミューズメントスポットはないかも しれないけれど、それだからといって不幸だとはこれっぽっちも思っていません。

生まれたばかりの子どもは人畜無害。まったく罪を持たずに生まれてきます。何かしら 犯罪に手を染め、罪を背負うことになるのは成長してからです。そして子どもは親を選べ ません。無垢なままで生まれてくる子どもの将来を輝かしいものにしたいなら、親が子ど もを導くしかありません。つまり子どもの将来は、親が与える環境によって大きく左右さ れます。

では子どもをより良い方向に導く「環境」とはどのようなものでしょうか。 いろいろと思うことはありますが、何よりも大切な環境とは、「教育」だと考えています。 教育といっても、国語や算数といった学校の授業で教わるようなことではありません。 朝日が昇ったら布団から起きて、家族に大きな声で「おはよう!」とあいさつ。ゲームを やったりして夜更かししていないので、ちゃんと朝に目が覚めます。

朝ごはんをしっかり 食べて、元気に学校に向かいます。友達に会えるので、学校に行きたくて仕方ありません。 道の途中で近所の人に会ったら「おはようございます!」とあいさつできる。学校では友 達と一緒に勉強して、思いっきり遊ぶ。そして帰宅したら、家族にその日にあったことを 話しながら楽しく夕飯を食べる。夜は早めにベッドに入り、睡眠をとる……。 こういう何気ない日常にあることを普通にできることが、何よりも尊いと感じています。

工務店の社長だから言いたい 家族の安全圏、〝家〟が脅かされている

家族で幸せになりたいなら、家を建てよう